Secret Window,Secret Room

ここ は わたし の ひみつ の ばしょ

高校生、秘密のノート

 

今日はなんの話をしようか。

 

寒くなってきたよね。うん、そうだね。 

 

少し昔の話をしようか。 

 


「周りの空気を読む」という言葉がある。

 
何かをやって、思っていたよりも早く終わってしまったことはないかい?

 

 

当時高校生だったわたしは選択制の高校に通っていた。


家庭科系の授業を選択もしており、その日はマフラーを一本編むという授業だった。


授業は一科目120分。

 

毛糸の糸が太めということもあって、あっという間に編み終えてしまった。

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ふと、授業の残り時間をみると一時間半くらい残っている。

 

まわりを見渡すとまだまだ熱心にマフラーを編んでいる真っ最中だった。

 


一瞬、事態が理解できなかったが、どうやらわたしは

 

マフラーを編み終えるということを他の人よりも早くできてしまったらしい。


しかし、わたしはその事実を受け入れることがなかなかできなかった。

 


なぜか。


それは、この学校においてわたしは劣等生のはずだったから。

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劣等生がこのクラス内の優等生を差しおいて

何かを早くやり遂げたり、より高い点数や成績をとってはいけないと思っていたから。


そしてなにより「空気を読まない」と、怒られると思ったから。

 

先生がわたしを注意して、注意したことを親に言って、親がわたしを叱るから。

 

「なんでお前はおにいちゃんたちみたいに普通にできないんだ」といって殴ると思ったから。

 

 


……


そうしてわたしは残りの授業時間をどう過ごそうかと思案する。

 

当時はスマートフォンはおろか、携帯電話(フューチャーフォン)も持っていなかった。

そもそもお金のかかることは親が決して許さなかったし、同意も決して認められなかった。

 

家庭科の時間だから、歌をうたうわけにもいかない。

なにより、歌えばすぐにバレる。

 

手頃な本を読もうにも本はロッカーの中にあり、

暇だから席を立って本をとってきてもいいですかと言ってしまうといよいよ本末転倒になってしまう。


それじゃあ…

 

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…絵を描こうか。

 

ノートはない、机はある。

 

机の、木の板に描こうか。

 

でも鉛筆を使うと消しゴムで消さなければならない。

 

汚したら何をやっているんだと怒られる。

 


…そうだ、それならば。

 

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指を一本、机の板の上にすべらせて、線を描いていく。

 

線は板の上にとどまらず、2次元上にもとどまらず、生き生きと踊りはじめる。

 

 

こうやって、よく余った時間を頭の中のスケッチブックに描いていた。

 


誰も知らない。誰にもないしょ。

 

誰にも汚されない、わたしだけの秘密のノート。

 

 

それから何年もたってその頭の中の作品を誰かに見てもらいたいと思うようになったのだけれど、
それはまた、別のお話。いつかまた、別のときに話すとしよう。